好きよ 嫌いよ 9

好きよ 嫌いよ 9

 長い付き合いの協力業者さんで、職人気質の一人親方がいる。僕と同じ昭和37年生まれで、いわゆるアラ還(暦)世代にあたる。

 任せて安心の仕事人で、取引先からも外注するならこの人と、逆指名されることが少なくない。もちろんクレームなんて、過去1件も発生していない。
 と言うと、取引相手として非の打ち所がない様で、逆を申せば融通が利かない。受けた仕事は必ず自分が出向き、仕上げまで見極めなければ気が済まない。身は一つだから、依頼されても請けられる範囲は自ずと狭まる。実際、新規の案件を打診しても断られることが多い。だからいつまで経っても、仕事の幅が広がらないまま今日を迎える。

 仲間が数人いて、規模に応じて何人かに声をかける。彼が選んだ皆さんだから、誰もが水準以上の仕上がりだ。
 以前なら一緒に飲んだ時など、ウチからの発注をある程度彼らに任せちゃどうかと勧めたもんだ。「いやぁ、それが性分で出来なくて…」返事はいつも決まっている。「子供が大学出るまで頑張れば、後はやめても良いと思ってるんで」その子たちも、今や立派な社会人になった。

 そして相も変わらず、彼はわが社のために汗を掻いてくれている。一時は肩の痛みを訴え心配したが、仕事は休まずこなしてきた。
 今さら彼に、会社を大きくしたらと勧めたりはしない。動けなくなれば即リタイア。そしてわが社は、彼の後任を探すしかないだろう。

 事業の存続は商売人にとって、取引先に果たすべき大事な使命だ。職人一徹の彼はその命題を理解できぬまま、近い将来店じまいの時を迎えるだろう。とても残念なことだけど。



妥協せず
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